最近、漫画、ゲームなどの影響で日本刀が好きな女性、
いわゆる刀剣女子が増えているそう。
日本刀に詳しいわけではありませんけれど、
博物館、美術館などで、国宝や重文級の
名刀を何度か見る機会がありました。
その時感じたのは、物としての美しさ。
そして、そこに込められた精神性のようなもの。
日本刀を見ていると、鏡のようにこちらの心が
映し出されていき、それが落ち着くと、次第に、
その刀が持つ世界に引き込まれ、心が
鎮められていくような感覚を味わうことができます。
2015年7月25日、日本経済新聞夕刊。
《シニア記者がつくるこころのページ》。
そこに、
《現代に生きる刀匠 河内國平さんに聞く》
と題した、インタビューが掲載されていました。
《精神を強くするのが名刀》
《切れ味追求へ回帰》
との見出しが出ています。
河内さんは、奈良県東吉野村鍛冶場をもうけて、
刀を作り続けていらっしゃる刀匠。
刀剣界で最高峰の日本美術刀剣保存協会の
「正宗賞」も受賞した名工です。
河内さんは、長年、葛藤しつづけてきたそう。
それは、関ヶ原以降、太平の時代になり、
刀剣は、刀紋などの美しい景色の多い刀、
いわば見た目の優れた刀を作ることに
重点が置かれるようになったそう。
美しい工芸品としての刀。
しかし本当にそれでいいのかと
半世紀ほど、悩み続けてきたというのです。
河内さんは、「包丁は切れなければいけない
との包丁職人の話を聞き、刀もそこに帰らないと
いけないと思ったそう。
そして、切れる刀を作るために試行錯誤を重ねたとのこと。
ようやく2年ほど前に出来上がったそう。
その刀は、刃先は硬いが、地鉄は今までよりも
はるかに柔らかいものだったとか。
そしてそこに、刀の地鉄に現れていた
美しい景色「映り」が出ていたとのこと。
「映り」は、かつての刀にあったもの、
使える刀、切れる刀作りを目指したら、
失われた美「映り」の復元に成功したという訳ですね。
実用の刀、切れる刀を目指した
河内さんは、次のように語ります。
「ただ僕の力を買ってくれる人に、この刀で切ってみたい
なんて思わせたら、もうすでに鈍刀です。それを乗り越えて、
この刀を持っていたら何にでも対処できる気持ちに
させるものができたら、それは名刀でしょう」
続きます。
「正宗の刀なんか見たときに、
切ってみたいとは思わへんもんな。
人を活かす『活人剣』や」
さらに、
「人間の強さは精神的な部分が多い」、
技術よりも、気持ち。
「強い気持ちにさせる刀があったら、
それを持っていきたかったやろからな、武士はな。
現在でもそういうものが人間には必要やな」。
記事は、仕事場にかかげられた自筆の書を紹介。
「出来る出来る出来る出来る出来る
出来る出来る出来る必ず出来る」
と書いてあるそう。
基本姿勢は、絶対に「出来ない」といわないことで
弟子にも、やめなければいつかは出来ると言っているとか。
さら師匠で人間国宝だった宮入行平さんの言葉も
取り上げられています。
清貧で知られた師は、次のように言っていたとのこと。
「金を残すは下、名を残すは中、人を残すは上」。
優れた人から学ぶことが大事だが、物から学ぶことも大事と。
「教わるというのには人から教わるのと、
物から教わるのと、このふたつがある。
今は、人から教わることが多すぎる」。
いや、何かを極めた方の話は、
本当に奥が深い。
学ぶことがたくさんありますね。
亡くなった作家・山本兼一さんが、
河内さんの仕事ぶりを記した一冊。
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