作家・伊集院静さんが、日本経済新聞に連載していた
「琥珀の夢」が発刊されました。
そのブックレビューが
東洋経済オンラインに
掲載されていました。
《サントリーが表に出さない「陰徳」の存在感
作家・伊集院静氏が語る創業者鳥井信治郎》
http://toyokeizai.net/articles/-/192105
その中で個人的に一番、興味を引いたのが、
次の箇所です。
創業者の鳥井《信治郎を知ろうとする過程で、
この企業が初代から100年以上続いているのは
単純に経営や事業とは関係ない、企業としての
母体に何らかの精神が宿っているのではないか
と考えるようになった。会社自体は表に出さず
守り通している「陰徳」だと合点がいった。》
《調べ始めたら、その陰徳が初代の
信治郎・クニ夫妻から続いている。
信治郎の書いた半生記『道しるべ』に書いて
あるのは親孝行せよ、家族孝行せよ、
とにかく神に祈れ、さらに近江商人の「三方よし」、
つまり「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」
のこと、最後に陰徳のことがあった。》
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陰徳(いんとく)は、人知れず行なう善い行いのこと。
「陰徳あれば必ず陽報(ようほう)あり」との言い回しが、
中国の古い書物「淮南子」の中にあります。
人知れず善行を積んだ人には、
必ずよい報いが目に見えて現れる
という意味です。
現在のサントリーの創業者・鳥井信治郎さんは、
1879年大阪生まれ。(~1962年)。
鳥井商店を開業し、赤玉ポートワインを製造販売。
さらに寿屋洋酒店(現サントリー)と改名した後、
国産ウイスキーの製造に初めて成功した人物です。
2014年後期のNHKの連続テレビ小説
「マッサン」では、現在のニッカウヰスキー
創業者・竹鶴政孝とその妻リタの物語が
描かれました。
その中で、竹鶴政孝氏に
多大な援助をしたのが、
鳥井信治郎氏でした。
本の中では陰徳という章立てで、
信治郎氏がその母から教わった
陰徳について詳しく書かれていました。
大阪の天満にある天神さんに、
幼い信治郎を連れて、参拝したお母さん。
参道には、多くの物乞いの人が座っています。
お母さんは、手を合わせ、喜捨をします。
物乞いの人が、頭を下げてそれを受ける姿が
面白いと信治郎が振り返った時、
普段はとても優しい母親が
「振り向いたらあきまへん」と強く叱ったのだそう。
その時、幼なかった信治郎はその理由が分からなかったのですが、
大きくなって、
「人さまに恵むのは報いを求めるためではない。
求めたら差し引きゼロになる」
との教えではなかったかと語っています。
鳥井信治郎氏の生涯の座右の銘は
「陰徳あれば陽報あり」であったのです。
伊集院静氏は現在、仙台在住ですが、
サントリーは東日本大震災の直後から
宮城、岩手、福島などの被災県に
多額の義援金を贈ってきたのに、
大々的にPRしない社風が、人知れず善行する
「陰徳」に努めた創業者、鳥井信治郎の代から
続くものだと知ったことで、鳥井信治郎とは
どんな人物だったのかと執筆の動機となったと、
別のインタビューでも述べています。
今どきの日本人が失ってしまった
陰徳、慈悲といった美徳を、
鳥井信治郎という人物を通じて
書いてみたかったとも。
以前にこの陰徳について書いたことが
あるのですけれど、自分も小さい頃から、
祖母、両親などから、何度もこの言葉と
その意味を教えられました。
祖母は生まれは四国ですが、20歳から
亡くなるまで神戸、大阪で商売をして
暮らしたので、商売人が大切にした
この陰徳という考え方を孫にも教えたかった
ようです。
「陰徳を積む」。
伊集院静さんの新刊を読んで、
久しぶりに祖母の教えを
思い出したいものです。
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