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千賀健永と紀貫之。毎日放送の番組「プレバト!!」の俳句コーナーで盗作? 俳句と短歌、本歌取り。芭蕉、藤原定家。

      2017/04/19

千賀健永と紀貫之。

恥ずかしながら、
後ろは読めて知っていたのですが、
前の人物を知りませんでした。

あなたはいかがですか?

千賀健永は「せんが・けんと」と読み、
ジャニーズ事務所の、男性7人組のアイドルグループである
「Kis-My-Ft2」(キスマイフットツー)のメンバーだとか。

http://www.johnnys-net.jp/page?id=artistTop&artist=17

ちなみにグループ名は、メンバーの
名字の頭文字(イニシャル)をつなげたもの。
(千賀でs。Kiは北山。なお2は二階堂)

この千賀さんと、あの平安時代の歌人、
三十六歌仙の一人で、「土佐日記」の作者、
「古今和歌集」の編者である
紀貫之(きのつらゆき)とどんな関係があるのか?

それは、千賀さんが、2017年4月6日放送の
TBSの番組「プレバト!!」内の俳句コーナーに出演。
http://www.mbs.jp/p-battle/

その際に披露した句が、
紀貫之の和歌の盗作ではと
騒がれているのです。

番組の俳句コーナーの評者は、
俳人の夏井なつきさん。

今回のテーマは「満開の桜」。
満開の桜の写真をもとに、
一句詠むというものです。

千賀さんが詠んだ句は、

「桜花 風の名残の 空の波」

この句で3位に選ばれています。
(1位2位は上記番組サイトに掲載されています)

この番組を見た視聴者が、ネットに、
この句は、古今和歌集所載の紀貫之作、

「桜花 散りぬる風の なごりには
水なき空に 波ぞ立ちける」
(古今集・巻2・春歌下・89)

の盗作ではないかと指摘し、
問題になっているのです。

自分は、この騒ぎを、
知合いから教えられました。
(2017年4月18日の朝刊掲載の「週刊女性」の広告中、
《キスマイ千賀健永“紀貫之のパクリ”疑惑の白黒》との
見出しが掲載されていました。
記事は本エントリー執筆時点で未読)

これを聞かされた時、いやー、千賀さんも含め、
皆さん、俳句、和歌にとても詳しいなーと感じました。

一方で、気になったのは、
選者である夏井さんは、
このことを指摘したのかということ。

ネットの関係記事を読んだ限りでは、
この句と紀貫之の短歌との関連についての
コメントはなかったようです。

そもそも千賀さんは、この句の題意を
どのように説明したのでしょうか。

それが紀貫之の短歌と関連付けて
説明されていないので、
こんなにも問題になっているのですね。

千賀さんは、このコーナーへの出演は
初めてではなく、これまでに何度も出演。

「特待生3級」という
番組独自の段位を与えられています。

ということは、才能があり、俳句などの
文芸に詳しいということなんでしょうね。

なので、紀貫之の有名なこの短歌を
知っていても不思議ではありません。

短歌及び俳句の世界では、
「本歌取り」との手法があります。

これは、学校でも習った通り、
古の名歌の一部を取り入れ、
新たな歌を詠むこと。

もとになっている歌=本歌の中の言葉を使うことで、
本歌がもつイメージ・心情を、新しい歌・句に取り込み、
歌・句の世界を広げ、重層的にすることができるのです。

「オマージュ」と言う言葉がありますが、
本歌取りはまさに昔の作品へのオマージュ。

過去の名歌への憧れ・賛辞をもとに、
自らの創意を付け加えるところに、
「本歌取り」の意味があるのです。

この本歌取りは、「新古今和歌集」の編者である
藤原定家が、よく行なったところ。

本歌(万葉集)
「苦しくも 降りくる雨か 三輪が崎 佐野のわたりに 家もあらなくに」
本歌取り(藤原定家)
「駒とめて 袖打払ふ 蔭もなし 佐野のわたりの 雪の夕暮」

新古今の時代にブームとなりました。

しかし単なる模倣になる例も出てきたため、
藤原定家は、弟子達に本歌取りの際の
注意点・マナーを以下のように教えていました。

《コトバンク 本歌取り》
《(1) 本歌は三代集またはその時代のすぐれた歌人の歌に限る,
(2) 本歌の2句と3~4字程度の長さを取るのがよい,
(3) 取った句の位置は本歌と異なるのがよい,
(4) 春の歌を取って恋の歌を詠むというように
主題を変えるのがよいとした。》
https://kotobank.jp/word/%E6%9C%AC%E6%AD%8C%E5%8F%96%E3%82%8A-134987

以上は、和歌の世界での説明ですが、
連歌・俳句の世界でも
「本歌取り」があります。

俳聖・松尾芭蕉の句にも
こうした本歌取りの作品は数多くあります。

「奥の細道」中の
「夏草や 兵どもが 夢の後」は、
唐代の詩人・杜甫の「春望」中の
「国破れて山河在り 城、春にして草木深し」
から作られたものとされています。

そもそも「奥の細道」の冒頭の有名な一文、
「月日は百代の過客にして 行きかふ年もまた旅人なり」は、
やはり唐代の詩人・李白の
「天地万物逆旅 光陰百代過客」から、とったものです。
(「逆旅」=「旅籠」)

また「此道や 行人なしに 秋の暮」は、
唐時代の詩人・寒山の「寒山詩」中の
「無人行此道」から、発句したとされています。

「コトバンク」の記述にあるように、
漢詩文に由来がある場合は「本説 (ほんぜつ) 」、
もしくは「本文 (ほんもん) 」とも呼びます。

以下のブログにもあげられていますが、芭蕉は先達の
連歌の附け句などから、そのままそっくりいただいた句も
あります。

《林誠司 俳句オデッセイ》《本歌取りと類想類句について》
https://blogs.yahoo.co.jp/seijihaiku/34684960.html

《義朝の心に似たり秋の風        芭蕉
※義朝・・・・・・源頼朝の父・源義朝
俳諧の先駆者と言われる伊勢の神官・荒木田守武の連歌の附け句、
よしとも殿に似たる秋風
から来ている。
一部を拝借しているのではない。
まるまるいただきである。》

《芭蕉の「世にふるも」の句について~本歌取りとは?》
https://blogs.yahoo.co.jp/seijihaiku/34689172.html

宗祇と芭蕉の句を分析して、本歌取りについて、
林さんなりの結論を出していらっしゃいます。

《「本歌取り」とは、単に、文言を真似るだけではない。
先人の詩情に「和して」詠ってこその本歌取りである。
気の利いた表現だから、ちょっと自分も使ってみよう
というのではダメなのだ。
その風雅の心に和してこそ、本歌取りなのだ》

藤原定家の戒めなどをふまえ、
以上から、千賀さんの句を
どう考えればいいのでしょう?

桜の短歌に桜の俳句。
趣向が一緒というのは、気になります。

次に千賀さんの句は、紀貫之の短歌とは異なる
「新たな表現」となっているか?

この辺りの評価が、「本歌取り」か、
「本句盗り」なのかの分かれ目。

個人的には、千賀さんが題意説明で、
紀貫之の短歌をあげ、そこに自らの趣旨を
加えていれば、「本歌取り」としても
よい句だと思います。

「桜花 風の名残の 空の波」

「桜花 散りぬる風の なごりには
水なき空に 波ぞ立ちける」

ただ、詠んだ千賀さんや、
評者の夏井さんはじめ、一座の方が、
どなたも本歌について、言及していなかった
ことは、誰もが知っている短歌・漢詩を
使うこととの「本歌取り」の前提が
成立していなかったということなので、
そこはとても残念でした。

しかし多くの人が見るテレビの
バラエティ番組で、俳句に関して、
やりとりが成立する日本という国は、
改めて詩歌の国なんだな
と思い知りました。

こうした詩文の伝統、
大切にしたいものですね。

〇藤原定家と本歌取り
《芭蕉会議》《定家と芭蕉に関するメモワール。江田浩司》
http://www.basho.jp/ronbun/ronbun_2009_10.html

《藤原定家は、生涯歌数3735首の内、本歌取りであることが
明らかに推定できる歌が757首、実に全体の約21パーセントにのぼる。
本歌の出典は、『古今和歌集』 が408首、『後撰和歌集』 が53首、
『拾遺和歌集』が79首、『万葉集』 が74首と、三代集と 『万葉集』
でその殆どを占めている。
また、物語に典拠するものは 『源氏物語』 が34首、『伊勢物語』が
21首と大半を占め、その他には 「後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今」 を
合わせて58首が確認されている。》

追記
〇《特待生3級が詠んだ句は「桜花 風の名残の 空の波」。
桜が風にうたれて波を表している様子を伝えた一句。
夏井先生は「桜さくら 風の名残の 空の波」と添削した。》
http://kakaku.com/tv/channel=6/programID=44413/episodeID=1050961/

〇4月6日放送は「春の俳桜戦スペシャル」と題し、
俳桜の称号を争うというもの。8人が出場。
Kis-My-Ft2からは、もう一人、横尾渉が参戦。
彼の番組での段位は名人初段。
詠んだ句は
「夜に入りて 雨となりにし 花万朶(はなばんだ)」。
「花万朶」はたくさんの桜の枝が垂れ下がった様子。
桜が満開であることを示す。
夏井さんは、
「夜に入りて 雨となりたる 花万朶」と添削。

〇テレビガイド、2017年3月24日。
《「キスマイは表現者…スタッフの想定をはるかに超えている」
『プレバト!!』総合演出・水野雅之さんに裏話を独占取材》
http://www.tvguide.or.jp/cyokusoubin/20170324/01_cyokusoubin.html

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