ジョンソン英前首相が退任演説で「キンキナトゥス」に言及
ジョンソン英首相は、2022年9月6日、退任演説で、自らの3年間の実績、そして後任のイギリス史上3人目の女性首相となるトラス氏への期待を述べました。
その後、「私は役目を終えたロケットのように、太平洋の遠くに見えないように落ちていく」と語り、さらに「キンキナトゥスのように、自分の畑を耕しに帰る」と古代ローマ時代の農民であり、政治家
でもあった人物に自らをなぞらえました。
イギリスのメディアは、このコメントを政権復帰の意欲を示していると解釈したようです。
《Boris Johnson likens himself to Roman who returned as dictator》
なぜでしょうか。
それは、このキンキナトゥスは、一度、政界から退き、田舎に引っ込んだものの、その後、再び、
古代ローマが危機に陥った時に、元老院から独裁官として呼び戻されたという歴史的事実があるからです。
「キンキナトゥス」とは。引き際が見事な理想的な政治家。
上に少しだけキンキナトゥスについて記しましたが、日本ではほとんどこの人物は知られていません。
中学、高校の教科書でも出てきません。
しかし英米、ヨーロッパでは、多くの人が知っている歴史上の人物です。紀元前5世紀、古代ローマの共和制前期に活躍した政治家です。高潔な美徳を持つ理想的な政治家として認識されているのですね。
当時、ローマはアエクイ族、ウォルスキ族と対立。2部族がローマに攻めてきます。キンキナトゥスは元老院より独裁官に指名され、ローマ軍を率いて勝利します。半年の独裁官の任期をまたずわずか16日で退任。農場に帰ったのでした。その後、紀元前439年に平民階級が反乱を起こそうとした時に、再び独裁官に就任を要請され、反乱を鎮圧。そしてすぐに地位を返上し、農民に戻ったのですね。
この彼の誠実さ、謙虚さは、ローマ社会で伝説となり、語り継がれることになります。さらに現代でも、引き継がれ、「Cincinnati( シンシナティ)」としてシンシナティ協会が結成され、さらには、
アメリカ合衆国オハイオ州やアイオワ州にシンシナティとして都市名が冠せられています。
かつて細川護熙元総理が、日経新聞の「私の履歴書」の中で言及されました。
関連エントリー
《トクダス》
《久しぶりに目にしたキンキナトゥス。細川護煕元総理の「私の履歴書」。アンドレア・フランケッティのチンチナート。》
本「ローマ帝国人物列伝」
このタキトゥスを含む、古代ローマの32人の人物について記したのが、
古代ローマが専門の本村陵二さんです。
建国期 ブルトゥス、キンキナトゥス、カミルス
成長期 アッピウス、ファビウス、大スキピオ、大カトー、コルネリア、マリウス、
スッラ
転換期 クラッスス、大ポンペイウス、カエサル、アントニウス、アウグスツス
最盛期 ゲルマニクス、ネロ、ウェスパシアヌス、五賢帝、ガレノス、セウェルス
衰亡期 ガリエヌス、ディオクレティアヌス、コンスタンティヌス、ユリアヌス、
アンブロシウス、テオドシウス、アウグスティヌス
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